環境に配慮した持続可能な酒造りを評価され、2部門で最優秀賞を受賞した商品と賞状=米沢市

小嶋総本店現社長の24代目小嶋健市郎さん(43・H11卒)はこれまでいろいろな取り組みを行ってきた。その一つが酒かすの利用だ。まず手がけたのが、酒かすを蒸留してつくった焼酎をもとにした梅酒である。この「東光 吟醸梅酒」は、2012年、大阪天満宮で開催された梅酒の大会で優勝し、ヒット商品となった。

長年、酒かすは漬物や農家の堆肥として需要があり、大事な収入源だった。しかし、ここ最近は売り上げが落ちてきた。特に焼酎造りに使用した酒かすは、匂いの問題もあり、他への転用も難しかった。

そうした中、2年前にバイオマス発電との出会いがあった。畜産農家の牛ふんと酒かすから精製したメタンガスで発電し、その電気で酒造りをするまでに至った。二酸化炭素(CO2)排出量もこれまでの3分の1(実質的にはゼロ)にすることができた。

そのかいあって、昨年12月5日、世界最大の酒類ニュースサイト「ザ・ドリンクビジネス社」(英国)が主催する「グリーンアワーズ2023」にて、「環境に配慮した新製品の発売を表彰する賞」と「再生可能エネルギーの実施に関する功績を表彰する賞」の2部門で最優秀賞を受賞した。健市郎さんもロンドンでの授賞式に参加した。

前者は、太陽光パネルで動く自動抑草ロボットを用いた農法で栽培した農薬不使用米を使用した「東光 純米大吟醸 アイガモロボ農法」が評価された。後者は、先に述べた酒かすを活用したバイオマス発電で生まれた電力による、酒造りでの取り組みを評価されての受賞である。

また、健市郎さんは商品を絞ることにも踏み切った。これは23代目弥左衛門さんによれば、かなり勇気のある決断だという。売り上げにダイレクトに響くからだ。加えて、使用する出羽燦々、雪女神といった山形の酒造好適米は、全量契約農家のものにした。目の行き届く範囲で、自ら米を作る徹底ぶりだ。さらに驚きなのは、製造するのは純米酒のみにしたことだ。通常、吟醸酒をつくるには醸造アルコール(多くは海外産)の方が適しているとされる。しかし、あえてそれを使用せず、米100%で酒造りをする。つまり地元の水と米だけで、酒造りをしていくということだ。健市郎さんによれば「地域を売りにしているなら、ピュアなものを提供したい」とのことである。

24代目の様々な試みについて、23代目は「今の人は考え方が全然違う」と苦笑いをしていたが、一方で「私はすべて(息子に)渡した」「時々ブレーキを踏むだけ」とも。いろいろと心配や口出ししたいことはあるだろうが、それは危急存亡の秋だけ。このような弥左衛門さんの姿勢には、学ぶべきところが多々あるように感じた。

健市郎さんは今後について、「日本酒造りは日本的産業なので、和食とともに、日本的でありながら、世界で強く生きていきたい」と抱負を述べていた。今後、日本の国力が衰退するとの悲観的な予想が声高に叫ばれる中で、なんと力強い言葉だろう。24代目が長い海外経験を持っていることも含め、東光のブランドに、確実に良質な調味料が加わったと言えるのではないだろうか。

このような「東光」のブランド力は、表立って見える営みだけで醸成されたものではない。おととし、東京の保谷を訪れた際、駅前の酒屋さんにふらっと立ち寄った。私が米沢に住んでいることを話すと、酒屋のおかみさんが「よく東光のご主人が見えるわよ、先代も若主人も」と話してくれた。「東光」が「東光」たるゆえんは、こうした地道な活動が、23代目の言葉を借りれば「駅伝」のように受け継がれてきたことに由来するのだろう。今年3月に国の登録有形文化財に指定された店舗などと同様に。

(原淳一郎・県立米沢女子短期大教授)

はら・じゅんいちろうさんは1974年、神奈川県秦野市生まれ。慶應義塾大大学院文学研究科で博士(史学)を取得。専門は、日本近世史、民俗学。著書に「江戸の寺社めぐり-江戸・鎌倉・お伊勢さん」(吉川弘文館)など。

2024年6月24日山形新聞より