国が今年、「飲酒のガイドライン」を初めて策定しました。お酒は生活習慣病の要因とも、百薬の長や人間関係の潤滑剤とも言われます。お酒とのつきあい方、改めて考えてみませんか。

■薬物的要素忘れず、楽しむ ラズウェル細木さん(漫画家・S50卒)

お酒を飲む楽しさは、酒を飲む「気分」を味わうことではないでしょうか。連載漫画「酒のほそ道」は主人公のサラリーマン岩間宗達が、酒と料理を楽しむ歳時記。酒を飲んでいる気分に焦点をあててきました。

私の漫画を家で読みながら、コンビニで買ったお酒とおかずを楽しんでいる方も結構いる、と聞きました。連載開始から30年を迎えられたのは、「気分」を読者の方と共有できたからだと思っています。

私は週に2本の原稿の締め切りを抱えて仕事をしています。漫画家というと夜中に仕事をするイメージを持つ人も多いと思いますが、朝から夕方までを仕事の時間帯と決めています。夜は晩酌をする時間にしたいからです。今日のおかずは何にしようか、冷蔵庫の中の食材のどれを使おうかと考えるのは楽しみです。

私が作る料理は、凝ったものではなく、簡単にだれでも作れるものです。漫画に出てくるつまみの多くは自分で作ったもの。毎年季節がめぐってきて同じものを食べますが、料理に旬の食材を取り入れるのは楽しみの一つです。

晩酌は、締め切りに追われた時間からつかの間解放される喜びです。一日仕事を頑張ったご褒美というか。指圧などで体をほぐしてもらう感じでしょうか。一人で飲む時、自分と向かい合う時間が作れるんですね。頭が柔らかくなって、次の仕事のアイデアが浮かぶことも。もちろん大衆居酒屋も好きで、常連さんがいて、特に会話をするわけではなくても、その場にいるだけで連帯感が湧き、落ち着いた気分になれます。

お酒は飲む動機が大切だと思っています。仕事の疲れを落としてリラックスするために飲むのはいいけども、嫌なことを忘れるとか、やけくそになって暴飲するのはよくない。酒量が増えて健康に悪い一方、物事が解決するわけではありませんから。

心がけているのは、お酒にはどうしてもドラッグ的な要素がつきまとうのを忘れないことです。そこを自覚しながら飲んでいます。実際、依存症になって苦しんでいる方やその家族が抱えている苦しみも知っていますから。お酒は楽しいからどんどん飲んで、とは口が裂けても言えません。

お酒というのは、つきあい方によっては人生のいい友だちになれると思います。上手につきあい、人生を豊かにできるかは、飲む側の心がけ次第なのです。(聞き手 編集委員・豊秀一)

ラズウェルほそき 1956年生まれ。94年に「週刊漫画ゴラク」で始めた連載「酒のほそ道」が連載30周年に。2012年、第16回手塚治虫文化賞短編賞受賞。

2024年6月25日朝日新聞より抜粋