◆魅力ある地域に不可欠 ◆沿線の催し気運高める

JR米坂線開業100周年記念事業実行委員長・久保道典さん(S44卒)

2022年8月豪雨で一部区間が不通になっているJR米坂線の復旧復活の願いを込めた取り組みが沿線で始まっています。今まで沿線住民同士で交流することは少なかったのですが、活動を通じて互いの顔の見える関係が県境を越えて生まれつつあります。自動車での移動では得られないつながりを、鉄道は持っていることを改めて感じています。

米坂線は26年に開業100周年を迎えます。節目に向け、利活用促進や早期復旧の機運醸成を目的に発足した記念事業実行委員会では、沿線各駅での応援ライブや絆マルシェ、写真展などのイベントを展開しています。新潟県側での開催も実現し、先月の関川村に続き、12月1日には村上市でも実施予定です。

全国に目を移せば、地方の赤字路線の廃線が目につきます。しかし、都市と農村がつながってこそ、国が成り立つのではないでしょうか。だからこそ、米坂線の早期復旧を望む私たちは復活を果たした福島県のJR只見線の経緯に学ぶ必要があると感じています。採算面だけを見るのではなく、鉄道がこれまで果たし、今後も担う役割をノスタルジックな思いから離れて未来志向の視点で捉えなければなりません。

首都圏以外は人口減少が進展する中、山形・新潟を「ここで住みたい、学びたい、働きたい、子育てしたい!」と思える魅力ある地域にしていかなければなりません。そのために米坂線は欠かせない存在であり、利用促進や活性化に向けた方策が求められます。

例えば、近年は高齢ドライバーによる交通事故の防止を目的に、高齢者に免許返納を促す取り組みが広がっています。一方でその後の移動支援の拡充も求められます。鉄道は高齢者の外出機会を生み出す手段にもなり得、デマンドタクシーなどの充実を図ることで駅の利便性向上につながるのではないでしょうか。

そこに沿線再発見の旅行企画、温泉や歴史などの見どころのマップ化などの取り組みも掛け合わせることで活性化も図ることができるのではないでしょうか。さらに沿線の街にはそれぞれの特産があり、点と点を結ぶ意味でも注文に応じた駅弁開発も一つの手と感じます。沿線住民や関係機関と共同で検討していくことができれば、面白い取り組みになるのではないでしょうか。

また、全国の鉄道ファンに米坂線や沿線風景の魅力をアピールし、活性化につなげていくことにも取り組んでいきたいと思います。奥羽本線や仙山線、羽越本線、フラワー長井線など県内の鉄路を取り上げた「鉄旅音旅」など企画やアイデアは尽きません。物流の人手不足や輸送力低下が懸念される中で、大量輸送という鉄道の特性が見直される可能性もあります。

路線の利活用活性化に向け、沿線住民や関係機関が互いに知恵を絞り、一丸となって取り組む事が重要です。課題や困難は山積していますが、子どもが集まり、お年寄りが安心して出かけられる地域にしていくために、米坂線の早期復旧を国やJRなどに強く要望し続けていきましょう。

置賜の地を「東洋のアルカディア」と称したイギリスの旅行作家イザベラ・バードがたどった旧道「越後米沢街道・十三峠」に沿った米坂線の歴史を見つめ直し、再び生かすのは今を生きる私たちです。未来を託す子供たちの笑顔のために。

(長井市在住)

2024年11月14日山形新聞より