川西町出身の作家・劇作家井上ひさしさん(1934~2010年)の生誕90年、井上さんとゆかりのある町フレンドリープラザ開館30周年、井上さんを偲ぶ文学忌「吉里吉里忌」10回目の節目にあたる年だった。とりわけ井上さんが神奈川県鎌倉市の自宅で使用した書斎を同プラザ内に再現した事業は、ファンの大きな注目を集めたのではないだろうか。
プラザ内にあり、井上さんの蔵書を多数収録する遅筆堂文庫(阿部孝夫館長・S48卒)の一画に整備した。同プラザ内にある天神森古墳の森は、井上さんが幼少期に遊んだ場所でもあり、安部館長は「書斎の場所は、自分が手にした本と、古里の風景のすぐそば。再現するべき場所にできた」と話す。面積は約13平方メートルで、約1330万円をかけた。今年1月に着工し、2月末に完成。その後、物品を搬入するなどした。
井上さんが実際に使った机や椅子、本棚のほか、文房具をはじめとする備品を鎌倉市から運び込んだ。木製の机には愛煙家だった井上さんがつけた焦げ跡がいくつもあり、部屋の主が執筆に打ち込む姿などが浮かび上がる。
井上さんが使った机を触れることができ、椅子にも座れるのが大きな特徴だ。今年4月の吉里吉里忌に登場した妻のユリさんがステージ上から、「ガラス越しでは寂しい。ひさしさんを愛する皆さんから、座りに、触りに来てもらいたい」と来場者に呼びかけたのが印象的だった。
4月の一般公開からおよそ8カ月。安部館長は「椅子に腰かけ。ゆっくりと雰囲気を味わっていく来館者が多いようだ」とし「作品という『結果』だけでなく、それを生み出した『過程』に思いをはせ、それぞれのひさし像を描いてもらえたらうれしい」と語った。
2024年12月7日山形新聞より