ペンネーム天見玲 450超掲載
山形新聞、オピニオン面の「気炎」に、「天見玲(あまみれい)」のペンネームで2011年から寄稿し、今年7月に筆をおいた南陽市の錦啓(あきら)さん(79・S38卒)がその歩みを一冊にまとめた「窓辺の足音」(書肆犀)を出版した。時の政治や文化、スポーツから山形のことまで硬軟織り交ぜた450超のコラムを掲載。確かな筆致で読者を引き付ける。
天見玲のペンネームで寄稿した「気炎」を一冊にまとめ出版した錦啓さん(S38卒)=南陽市 錦さんは同市出身で山形大を卒業後、県立高の国語教諭となり、県立博物館長、米沢東高校長などを歴任した。父親はクモの研究、歌人として知られた故錦三郎さん。
一行15時の50行で構成する気炎の“お約束”に沿って、天見玲が登場したのは11年9月15日付、県民が電話口で自分を名乗る際に現在形の「〇〇です」でなく、過去形の「〇〇でした」と切り出す不思議を取り上げる。独特な言い回しがマスコミで広く取り上げられ、面白がられる世情を横目にその訳をつづり、「過去に発生した縁をいつまでも大切にする県民性の表現とみることに何の不思議もない」と結んだ。
21年2月10日付では、失言の多さで有名な元首相が日本オリンピック委員会の会合で女性蔑視と受け取られる発言をした問題を取り上げる。全く反省が見られない大物政治家に嘆息しつつも、そうした発言をスルーさせてしまう日本の会議文化にこそ問題があると指摘した。
硬軟自在 書きたい思い 生きがい
錦啓さんのコラム集「窓辺の足音」 錦さんは「書き手ならではの批評精神がないと、面白く読んでもらえないと思う。筆者自身はどう考えるか。それを表すことが『私のいる文章』であり、ずっと意識した」と明かす。筆をおいた理由については「余力があるうちにやめて、本にまとめたいと考えていた。執筆中はずっと『気炎』が生活の中に根を下ろしていたので」と笑う。続けて「いいコラムを書きたいという思いが生きがいになっていた」と充実感をにじませた。
気炎の筆者は匿名だが、教え子との交流に触れた回がきっかけで、天見玲が錦さんであることが一部で広まることに。「ペンネームの良さはあるが、書いている人間が分かるのも悪くない。興味を持って読んでもらえるので」と相好を崩し、「今回本にまとめ、配った先から反応がもらえるのが楽しい。昔の付き合いが戻ったようで幸せを感じる」と語った。
併せて、07年に執筆した「日曜随想」も載せた。県内の八文字屋各店で扱っている。507ページ、3300円。
2024年12月15日山形新聞より