「東光」の銘柄で知られ、二酸化炭素(CO2)を排出しない「カーボンニュートラル」な酒造りを行う山形県米沢市の老舗酒蔵「小嶋総本店」の取り組みが、環境配慮に優れた事業などを表彰する「エコプロアワード」の優秀賞に選ばれた。昨年は海外でも表彰を受けるなど、同社の注目度は国内外で高まっている。
再エネ発電所の電力に切り替え二酸化炭素排出量3分の2削減
エコプロアワードはサステナブル経営推進機構主催で、今年が7回目。小嶋総本店の「カーボン・ニュートラル×スマート農業で実現する、循環型の酒造り」は計49件の候補の中から、財務大臣賞、環境大臣賞など五つの大臣賞に次ぐ優秀賞5件の一つに選ばれた。
再生可能エネルギーによる酒造りの循環サイクルを構築し、自動抑草ロボットを使った農薬不使用の酒米作りも手がけるなど、全方位で脱炭素を実現する取り組みが評価された。6日、都内で表彰式があり、小嶋健市郎社長(44・H11卒)が主催者から賞状などを受けた。
小嶋社長は、1597(慶長2)年創業の同社の24代目。2015年に社長に就任すると海外展開も積極的に進め、現在約25カ国・地域に輸出している。地球環境への意識が高い欧米の人らと対話を重ねる中で、自身の意識がはっきりと変化したのは18~19年ごろだったという。
「つくるのに大きな環境負荷がかかるガラスを使う量を減らそうと、シャンパンの瓶は軽くなり、スピリッツ(蒸留酒)の瓶にもガラス以外が使われ始めた。価値や売れ方に根本的に関わる部分を放棄してでも変わらなきゃという欧米の人たちの危機感を知って、自分たちの姿勢も問われているように感じました」
21年、牛のふんなどを発酵させて再生可能エネルギーを生み出している「ながめやまバイオガス発電所」(山形県飯豊町)に、発電原料として酒かすの提供を始めた。23年2月には、酒造りの電力を同発電所の電力に切り替え、CO2排出量の3分の2を削減した。残る3分の1の重油ボイラーからの排出分は国が認証する「J-クレジット」制度を使い、同年9月にカーボンニュートラルを達成した。
こうした取り組みは欧米でも高く評価され、同年12月、世界最大規模の酒類ニュースサイトが主催する「THE DRINKS BUSINESS GREEN AWARDS」の2部門で最優秀賞を受賞し、今年6月には山形県環境保全推進賞の知事賞も受けた。
「地域の方々のおかげもあって実現した取り組みが評価いただけたのは大きなこと」。小嶋社長はそう語り、重油ボイラーのエネルギーの脱炭素化についても模索を続けるという。「新たなサイクルをつくるには時間と労力を要するが、また地道にやっていきたい」
エコプロアワードの表彰式の前には、日本の「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録が決まった。「日本酒を飲んで下さる方は世界的には増えているという感覚がある。日本の文化を知って楽しむ習慣が、国内でも長く残ってほしい。さらにたくさんの方に楽しんでいただけるように、頑張っていきたい」。小嶋社長はそう思いを語る。
2024年12月19日朝日新聞より