金田屋蒲鉾店の看板商品「特製しんじょう」を手にする皆川拓海社長(H21卒)=南陽市赤湯

蒲鉾店の「特製しんじょう」

老舗魚店の8代目が、家業に加え、新たな挑戦として目をつけたのはかまぼこだった。

南陽市の赤湯温泉街に古くから根を下ろす金田屋魚店の8代目・皆川拓海さん(34・H21卒)は2023年9月、家業を継いだ。その2カ月後「金田屋蒲鉾店」をオープンさせた。場所は大通りに面する魚店の斜め向かい。「この先、家業が残っていくためにはどうすればいいか。時代を意識し、自分の経験からできることを考えての結論」と出店の狙いを口にした。

赤湯の名物に

「無添加 魚屋が作る自家製すり身」を売り文句に、地元赤湯の新たな名物にとの思いを抱く。若い店主が看板商品に挙げるのが「特製しんじょう」だ。スケトウダラを昔ながらの石臼ですり身にし、山芋を混ぜ合わせて、ふわっとした滑らかな口当たりに仕上げる。そこに地元食材、旬の味を取り込むことでバリエーションを生み出す。定番のカニ、サクラエビに加え、月替わりでさまざまな食材を練り込んだ一品を提供する。今月は新年の幕開けに合わせ、カズノコ、錦卵の2品が店頭に並んでいる。そのまま味わうもよし。わさびじょうゆを付けてもよし。

これまでにエダマメやトウモロコシを使い、モズクといった変わり種も。皆川さんは「組み合わせはたくさんある。季節感を味わい、楽しんでもらえる商品」と自信を見せる。

アイデアの源泉は、皆川さんが家業を継ぐ前の修行経験にある。進学した大学を1年で離れた。実家には戻らず、「日本の台所」である旧築地市場(東京)で仲卸業に3年ほど携わり、水産物の知識を実地で学んだ。その後、山形市の老舗料亭「嘯月(しょうげつ)」などで4年間、板前修業を積んだ。

信頼を大切に

金田屋魚店は地元旅館や飲食店に鮮魚を卸売し、家庭向けに刺身や商材などを小売りしている。信頼関係があってこその商いを大事にする姿勢は、何ら変わらない。一方で、8代目は食卓での「魚離れ」傾向を少しでも変えたいと強く思う。家業に就く前の経験を通して魚食の魅力を再認識した。そんな中で気軽に食べられ、魚を身近に感じられる食品として、かまぼこに着目した。

鶴岡市内のかまぼこ店「滝川蒲鉾」に作り方を教わるため、何度も通った。「快く受け入れてもらった上、商品の一部アイデアも頂戴した」と照れくさそうに話した。続けて「『常識がない』と周りから言われるが、思い立ったら行動に移す性分。仲卸や料亭を含め、多くのご縁に感謝してもし切れない」と実感を込めた。

小さな子どもからお年寄りまで、幅広い世代が口にできるのが、かまぼこの強みと言い切る。月替わりでいろんな味を提案する「特製しんじょう」をはじめ、新たな発想で多くの食卓を彩りたいと今日も発奮する。

金田屋魚店

江戸期の安政年間(1854~60年)に創業。初代は米沢藩に出入りが許された御用商人だった。以降、家内経営で地元に根差した魚店を営む。資本金300万円。従業員12人。南陽市赤湯774。

皆川拓海氏(H21卒)

(みながわ・たくみ)米沢興譲館高、高崎経済大中退。東京。旧築地市場で水産仲卸会社に勤務後、山形市内の料亭などで日本料理の腕を磨く。2018年、家業に入り、23年に社長に就任。南陽市出身。

2025年1月10日山形新聞より