東京都大田区の町工場が中心となって国産そりを開発する「下町ボブスレー」プロジェクトに、県産業技術短期大学校の元教授で、三陽機械製作所米沢工場(米沢市)の来次浩之さん(62・S56卒)=同市松が岬1丁目=が携わっている。そりは来年2月のミラノ・コルティナ冬季五輪での採用を目指す。過去3度の五輪では不採用で、4度目に懸ける関係者の思いは強い。来次さんも「関わったそりが五輪で走る姿を見たい」と、その日を心待ちにする。

プログラミングの際に難しかった箇所を説明する来次浩之さん(S56卒)=米沢市

来次浩之さん(S56卒)参加、来年冬季に手応え・切削工程プログラミング担う

プロジェクトは「町工場の高い技術を世界に広めよう」と2011年に始動。約150社が参加し、同社の黒坂浩太郎社長(55)が委員長を務める。これまで日本やジャマイカがそりを使ってきたが、ソチ、平昌、北京の五輪は採用されなかった。現在使うのは、ワールドカップで上位に入った実績があるイタリア代表のマッティア・バリオラ選手。ミラノ・コルティナ五輪の出場権獲得を目指し、4シーズンにわたり、プロジェクトのそりで国際大会を転戦する。

2人乗り用のそりは全長3メートル、重さ160キロ。部品は約150点で、各社が切削や溶接、塗装など得意分野を手がける。来次さんが担ったのは、部品の切削工程のプログラミングだ。最も難しかったのはスタート時に選手が押すプッシュバーの部品。複雑な形状で、5軸方向の高度な加工が必要だった。CAM(コンピューターを利用した製造システム)を使い、工作機械を動かすための10万工程分のプログラムを作成した。

下町ボブスレーのそりと、使用しているマッティア・バリオラ選手=2023年1月、ドイツ

昨年9月から大田区の本社で機械を操作する社員と、電話でやり取りしながら作業を進めた。試作段階では「部品が変形した」などの指摘があり、「本社から連絡が入るたび胃が痛くなった」という。改良を重ね、11月に完成した。

来次さんは産技短退職後の23年に入社し、主に社員教育を担う。金型設計・製作の専門家ではあるものの、5軸加工の機械を使った経験はなく、CAMの扱いも初心者。だが、学生たちには「断れば仕事は他に行く。『できない』と言うな」と教えてきた。依頼を断る選択肢はなかった。休み返上で臨み、「勉強になった」と充実感をにじませる。

バリオラ選手が出場権を得られるか、大手メーカーのそりが参戦してこないかなど、、本番直前まで油断できない状況は続く。そりは改良を重ねており、来次さんにも再度プログラミングの依頼が来る可能性もある。黒坂社長は「これまで最も五輪に近づいている感覚がある。今度こそ実現し、応援してくれる人たちに報いたい」と期待を込める。

2025年3月20日山形新聞より