まず社員の意識改革

米沢市の上杉神社近くに、建設業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)をけん引する会社がある。1926(大正15)年創業の後藤組(後藤茂之社長・S62卒)は、社員全員がアプリ制作に携わり、業務の効率化や生産性向上を推進している。書類作成の簡略化など、開発したアプリの総数は3千を超える。現在も毎日のように新たなアプリが生まれている。

人手不足の波は本県建設業界にも押し寄せている。長時間労働の是正は喫緊の課題に挙げられる。同社は2019年、アプリ開発を始めた。取り組む前と比べて書類は6割以上、残業時間は2割以上減った。後藤社長は「これほど急激にDXが進むとは思わなかった」と、職場環境の変化に目を見張る。

全社を挙げた取り組みは、中小企業のDX先進事例を選定する経済産業省の「DXセレクション2025」で最高賞のグランプリに輝くなど、全国の注目を集める。

正社員84人の平均年齢は38.7歳と若い。デジタル技術を取り入れやすい素地が整っていたのか、との問いに「最初はみんなから総スカンを食らった」。建設DXの実現には、社員の意識改革が欠かせなかった。

成果生まれ自発的に・課題解決へ挑戦の姿勢

デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む後藤組(米沢市、後藤茂之社長)はアプリの構築にグーグルやソフトウェア開発のサイボウズ(東京)が提供するツールを活用している。プログラミングの知識に乏しくても比較的容易に制作できる手軽さが、会社を挙げた「全員DX」の実現につながっている。

当初、後藤社長は部署ごとに毎月一つはアプリを作るよう、社員に命じた。目に見える成果が出なくてもいい。まずは開発に慣れてもらうのが目的だった。DX化に懐疑的な雰囲気があり、反応は薄かった。それでも根気強く働きかけた。次第に、現場で使える有用なものができ始めた。

二度手間解消

成果の一つが、「二重入力」の削減だ。日報など日々入力されるデータを自動でグラフ化し、会議資料に転用できるようにした。従来は、グラフ作成用に日報と同じデータを入れ直していた。二度手間が解消され、2時間ほどかかっていた資料作りの時間短縮につながった。

社員自らが効率化を実感したことで、個々の自発的な取り組みに発展した。現場の課題をDXで解決しようとする姿勢は、社内の共通認識となった。発表会を開いて優勝者に賞金を贈るなど、社員のモチベーションを高める工夫も凝らしている。

DXの推進は、人材育成にもつながっている。「アプリを作っていると、IT会社に勤めているのかと勘違いしそうになる」建築工事部の橋本果子さん(25)は語る。橋本さんは、工事用資材などの搬出予定をデータで共有化したほか、生コンクリートの運搬車を待つ時間を減らすために到着時刻が通知されるアプリを手がけた。

職場で奮闘しながら、アプリの構築にも携わる橋本果子さんと徳丸大樹さん=米沢市・後藤組
6割後ろ向き

土木工事部の徳丸大樹さん(26)は「最初は何を作っているかすら、分からなかった」と話す。勉強を重ね、一元的に工事書類を作成できるシステムを考案すると、多くの社員が利用するようになった。橋本さんも、徳丸さんも「最初は戸惑ったが、今はアプリなしの仕事は考えられない」と口をそろえる。工事現場で一緒になる協力業者は同社のDXに高い関心を示しているという。

総務省によると、建設業の6割はDXの導入に後ろ向きとされる。後藤社長は業界内の理解不足を指摘する。DXを手段ではなく、目的と捉えると「何をしたらいいか分からなくなる」とし、「課題を解決する姿勢がなければ取り組みは進まない」と強調する。

今後は生成AI(人工知能)の活用に力を入れる方針で、「アプリの比ではないすごさがある」と言葉に熱が帯びる。変化を恐れず、挑戦する姿勢こそが、DXを進める一歩となる。

2025年5月7日山形新聞より