県民有志、公設資料室設立へ活動活発化

戦争と平和を考えてもらう場所をつくろうと、公設資料室設立に向け、県民有志が準備委員会を立ち上げた。県内には第2次世界大戦の資料を専門に扱う公設施設がないことを受け、戦後80年の今年、活動を活発化させている。戦時下を生きた人は、ほとんどが鬼籍に入った。準備委のメンバーは当時の記憶、資料が失われていくことを危惧しており、「県への働きかけを強めたい」と話している。

大戦に関する公設資料室設立に向け、活動している九里広志さん(S40卒)、下山礼子さん、岡田恵子さん。戦後80年の今、県への働きかけを強めたいと語る。

会の名称は「平和祈念資料室設立準備委員会」。代表には、自宅のガレージでシベリア抑留などの関連資料を展示している「小さな小さな平和祈念館」館長、下山礼子さん(74)=村山市=が就いた。現在、発起人9人が賛同者を集めている。移転整備予定の県立博物館などに、大戦の資料を置いてもらうことを構想している。

県博物館・文化財保存活用室によると、現在、本県で大戦の関係資料を常設展示している県の施設は県立博物館教育資料館(山形市)しかない。教育関係施設という性質上、展示品は戦中の教科書や当時の学生の服装などが中心となっている。戦死者の遺品や家族への手紙など、戦争が人々の生活にどのような影響を及ぼしたのか―に触れる展示品は少ない。

メンバーは戦争の悲惨さを知り、平和の尊さを学ぶには戦時中の異本を収集、展示、管理ができる公共施設が必要と考えた。下山さんは他人の遺品を引き取り、管理するのは大きな責任が伴い、個人では限界があると指摘する。また、志を継ぐ人がいなければ、自身の資料館は閉館せざるを得ないといい、継続運営の難しさも課題に挙げる。

東海大山形高の校長を務めた岡田恵子さん(67)=山形市=は、安定運用が可能な公設資料館が県内にあれば、平和教育に大きな役割を果たすと強調する。

メンバーの元には、旧軍人の遺品が集まってきている。発起人の一人で九里学園高(米沢市)の理事長・校長の九里広志さん(78・S40卒)=米沢市=は「武運長久」を祈る千人針や、軍人手帳、出征旗などを託された。戦争関係の遺品を捨てられず「どうしたらいいか分からない遺族は多い」と推察する。

九里さんが所持する遺品に、出兵者の遺書がある。自らが戦死し日本が敗戦した場合、家族にも自決を求める内容だった。「このような悲惨な記憶を若者に語り継ぐため、公的な資料室が必要だ」と力を込めた。

2025年6月24日山形新聞より

「戦争資料室設置を」知事に市民団体要望・移転後の県立博物館に

第2次世界大戦に関する公設資料館設置の重要性を語る、市民団体の下山礼子代表と九里広志さん(右・S40卒)=県庁

第2次世界大戦に関する公設資料室設置に向け活動している市民団体が25日、県庁を訪れ、吉村美栄子知事に移転整備後の県立博物館に戦争資料室を置くよう要望した。吉村知事は「戦争の記憶を次世代に伝えるため、どう取り組むべきか考える」と述べた。

県民有志でつくる「平和祈念資料室設立準備委員会」代表の下山礼子さん(74)=村山市=と、発起人で九里学園高(米沢市)の理事長・校長の九里広志さん(78・S40卒)=米沢市=が訪れた。下山さんは、多くの来館者が見込める県立博物館に資料室を設置する利点を強調。「県の誇りにもなる。新施設から平和の大切さを全国に発信してほしい」と求めた。九里さんは戦争関連資料について「公的施設で、自由に見られるようにすべきだ」と述べた。

吉村知事は「戦後80年の今年は、戦争体験継承の最後のタイミングかもしれない。多くの人から意見を聞きたい」と語った。

2025年6月26日山形新聞より