県人口100万人割れ・その先の山形新章 

第6部 女性の活躍 2.価値観の多様化

子供が好き。いつかは欲しい―。山形市出身で上山市に暮らす会社員の女性(27)はそう語る。30歳までに1人目を産みたいと思う。ただ、婚活イベントに足を運ぶほどの焦りはない。転職した今の仕事をまずは軌道に乗せたい。「20代後半が適齢期と分かっていても実感が沸かない」。出会いの手段にマッチングアプリも使うが、回を重ねるごとに心がすり減る。

福祉に近い

人のつながりをつくる選択肢の「結婚」を伝えたいとする小野卓也さん(H4卒)=長井市

世相とともに出会いの場は変化している。結婚や出産への価値観は多様化する。長井市で婚活サポート委員を務める洞松寺の住職小野卓也さん(52・H4卒)は「結婚したい人はいるが、頑張ってまで、という人は少ない」と話す。かつては経済的な事情や世間体が後押ししたが、今は「しなくても困らない時代」。働き方や暮らし方の自由度が広がり、経済的にも自立できる人ほど結婚の優先順位が下がるという。

「それでも結婚を選ぶのは『いきおい』や『ロマンス』があるとき」と小野さんは語る。条件を並べ、合理的に考えるだけでは踏み出せないとみる。婚活イベントの女性参加者は少ないといい、出会い自体を目的にし過ぎるからと指摘する。「座禅や果物狩りなど、行くだけでも心地よい時間が大切。出会いがなくても有意義だったと思えるような場にしたい」と言う。

小野さんが描く婚活支援は結婚のあっせんではない。むしろ、福祉に近い。孤立せず、人と関わり、暮らす社会の中に結婚の選択があると考える。「友人や地域とのつながりが保たれる社会こそ、真のウェルビーイング(心身の健康や幸福)だと思う。結婚は孤独を防ぐ有力な手段だと伝えたい」と力を込める。

楽しい時間

仲人ボランティア活動に必要な考え方などについて、受講者が理解を深めた「つるおか婚シェルジュ」の養成講座=鶴岡市役所

少子高齢化を伴う人口減少が深刻な中、自治体は結婚支援に動く。鶴岡市では市認定の仲人ボランティア「つるおか婚シェルジュ」が活動し、約10年間で70組が成婚した。登録する30~80代の男女26人が結婚希望者約140人を支援する。今月中旬に市役所で新たな仲人の養成講座が開かれた。全日本空輸(ANA)の客室乗務員「庄内ブルーアンバサダー」を講師に、受講者はアンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)を内省し、相手の心に寄り添う姿勢を学んだ。

婚シェルジュ4年目の佐藤幸美さん(64)=鶴岡市=は「結婚願望のある人は潜在的に多いが、一歩を踏み出せない人が多い」と感じる。自らの仲介で結婚したカップルはいないが「楽しい時間を過ごせた」という声が何よりの励みになると笑う。

結婚が義務から選択に変わった今、求められているのは、背中を押す力ではなく、人と人が自然につながる環境ではないか。多様な生き方を認め合い、それぞれの選択を尊重できる社会。その先に、山形の地で誰もが安心して人生を選べる未来がある。

婚姻件数と合計特殊出生率の推移

本県の婚姻件数は減少傾向が続き、2024年は2946件と過去最少を記録した。厚生労働省が9月に公表した人口動態調査によると、10年代1.4前後で推移していた合計特殊出生率は近年再び下がり、24年は1.17と過去最低を更新した。若い女性の県外流出や未婚・晩婚化の進行を背景に、少子化の構造的な深刻さが浮き彫りとなっている。

2025年10月24日山形新聞より