山形県の高級和牛「米沢牛」の誕生から、今年で150年になる。今月、記念の競りがあり、75頭が約1.1億円で競り落とされた。脂肪の質や霜降りの細かさを測り、肉のおいしさを可視化する取り組みも進んでいる。

MUFA特別賞に選ばれた枝肉をチェックする競りの参加者=米沢市

米沢牛の主な条件は 1.山形県南部の置賜地域で長期飼育 2.生後月齢が33カ月以上の黒毛和種 3.子どもを産んでいない雌牛 4.肉質等級が3等級以上――などを満たした牛肉。脂の質の良さと、きめ細かく入ったサシ(霜降り)が特徴だ。

生みの親は、米沢の藩校「興譲館」で教えていたイギリス人教師チャールズ・ヘンリー・ダラスとされる。

1875(明治8)年、米沢での任期を終えたダラスは、1頭の牛を横浜に持ち帰った。居留地の仲間にふるまったところ、「おいしい」と大好評。そこで、米沢の家畜商と横浜の問屋を契約させ、「米沢牛」として売り出したという。

それから150年。米沢牛は、「一番食べてみたいブランド牛ランキング」(2023年、阪急交通社が実施)で「松阪牛」「神戸牛」に次ぐ3位に入るなど、高級牛肉としてすっかり定着した。

米沢牛を広めた恩人の名を冠した「C・H・ダラス賞」の最高賞に選ばれた枝肉=米沢市

今月2日、150年を記念した競りが米沢市営食肉市場であった。今年度の競りは山形新幹線の長期運休や物価高騰による買い控えで低調続きだったという。今回は、よりすぐりの75頭が出された。1キロの平均単価は税込み3200円、総販売額は約1億1100万円と、久々に高値での取引となった。

「C・H・ダラス賞」も設け、5頭を選出。枝肉1キロ当たり1万811円で競り落とされた牛の生産者に最高賞が贈られた。

「MUFAは今後導入する予定で、よりおいしいものを作る指標になる」と語る米沢食肉公社の佐藤康寛社長(S50卒)=米沢市

主催した米沢食肉公社佐藤康寛社長(S50卒)は「米沢牛の味は日本一と思うが、全国にはまだ十分伝わっていない。海外にも広めていきたい」と話す。

「口溶け」数値で可視化、全頭測定へ、県検討

肉牛は、各地でサシを重視した改良が進み、霜降り肉が増えた。サシの入り具合に加え、いま注目されているのが、口溶けの良さを表す指標だ。

今回の競りでは、オレイン酸など一価不飽和脂肪酸(MUFA)の数値が評価の指標として採り入れられた。不飽和脂肪酸は体温で溶けるやわらかい脂肪で、MUFAの含有量が高いと口溶けがよく、肉をジューシーに感じられるという。

食肉公社は県畜産研究所の協力を得て、出品された全頭のMUFA値を測定。上位3頭を表彰した。さらに、霜降りのきめ細やかさを示す「小ザシ指数」を帯広畜産大の口田圭吾教授が解析し、上位の肉に賞を贈った。

脂質を測定する装置を使い、肉のMUFAの数値を調べる様子

「和牛のオリンピック」といわれる5年に1度の全国和牛能力共進会でも、2022年から脂肪の「質」を評価する部門が新設された。

県は、23年から関係団体と肉のおいしさの「見える化」推進チームを立ち上げ、新指標の勉強会などを重ねている。県食肉公社主催の「山形牛」の競りでMUFAの全頭測定に向けた検討を進めている。

米沢食肉公社の競りでも今後、MUFAの測定を取り入れる計画だ。食肉公社の担当者は「品質をさらに高め、米沢牛を国内外にPRしていきたいと話す。

ふるさと納税・返礼品に「1頭分」用意、今年から半頭分も 

米沢牛誕生150年を記念し、米沢市はふるさと納税の返礼品に米沢牛1頭分(寄付額2250万円以上)、半頭分(1125万円以上)を用意している。

1頭分は約300キロで、サーロインや希少なシャトーブリアンなど全20部位。昨年12月から取り扱っているが、寄付はまだないという。

金額や量が大きすぎるかもしれないと、今年9月から半頭分も用意した。市ふるさと納税推進室の渡部修室長は「150年続く生産者の思いも味わって」と話す。主要なふるさと納税のサイトから申し込める。

2025年10月28日朝日新聞より