最新の手術設備を紹介する眼科医の渡部昌久さん(H14卒)=山形県米沢市

地域医療維持への危機感背景

地域の医療体制を守るため、山形県米沢市は、診療所を開く医師に独自の補助金を設けている。この制度を使い、制度創設から2年で3軒の開業・承継が決まった。

3月30日、JR西米沢駅にほど近い市街地に「渡部眼科クリニック」がオープンした。院長は、千葉県野田市の病院の眼科医長だった渡部昌久さん(42・H14卒)。地元の米沢市に戻り開業を決めたきっかけは、厳しい医療事情を知ったことだった。

市によると、市内には眼科が5軒あったが、白内障手術に常時対応できたのは市立病院のみ。手術は最大10カ月待ちとなっていた。渡部さんは「これまでの経験を生かし、役に立つことができるかもしれない」と考えた。

亡くなった祖父が「地元で開業するのを見てみたい」と楽しみにしていたことも、心に残っていた。「首都圏だと医師が飽和状態で、患者を奪い合うような感じでもあったので、開業するなら恩返しの気持ちも込めて米沢市に、と決めました」

最新の手術設備を備えようとすると、開業資金は1億円を超えることもあるという。渡部さんは、開業を支援する県から支援金、市から1千万円の補助金を受けた。

市は2024年度、独自の補助制度を始めた。市内で新規開業または承継し、10年以上継続する見込みの医師に、建物の新設、医療機器の購入などの経費を対象に最大1千万円を支援している。

対象は、特に不足が懸念される小児科と泌尿器科、耳鼻咽喉(いんこう)科。このほか、市長が個別に必要性を判断する。

25年10月には「ほさか窪田クリニック」(内科、整形外科など、穂坂雅之院長)、26年1月には「よねざわ眼科」(元山形大医学部付属病院医師の金子優院長)が補助金を利用して開業・承継した。

渡部さんは「事業計画をまとめていくと費用が膨らみ、正直、市などの補助がなければ計画見直しや開業延期なども考えざるを得なかった。かなり後押しになりました」と話す。

補助制度創設の背景には、地元の医師たちの危機感があった。2020年前後、市内では5年間で約10の医療機関が閉院する一方、新規開業は2軒ほど。開業医の半数超が65歳以上と、高齢化が進んでいた。

特に心配されていたのが小児科で、もともと5軒ほどあったが26年からは2軒に。いずれも医師は70代という。

医療のニーズは増える一方、医師は減少。このままでは、地域医療はもたなくなる――。米沢市医師会は22年度、「新規開業・承継問題検討委員会」を設けて対策を話し合い、市に働きかけてきた。

委員長で古川医院院長の古川匡和さん(59)は「新規開業はもちろん、既存の開業医から第三者への承継も積極的に支援することにした。『競争相手が増える』などと言っている状況ではなかった」と振り返る。

米沢市の担当者は「医師数もだが、医師の平均年齢が高く、地域医療体制の維持に向けた対策を早急にとる必要があった」。福島県内の自治体の先行事例も参考に補助金制度を導入した。

古川さんは「人口減社会の中では、身近に相談できるかかりつけ医の必要性が高まっている。医者がいないから米沢に住みたくない、ということだけは何としても避けたい。地域医療の充実は住みやすさにも直結する。ひいては人口減少に歯止めをかけることにもつながるはず」と期待する。

近藤洋介市長は3月24日の定例会見で「開業医がなくなるのは危機的な状況だと考え、思い切った措置を打った。やはり病院というのは道路や水道などと同様に、くらしのインフラだ。まだまだ完璧ではないが、ようやく目に見える形で一定の効果が出てきた」と手応えを語った。

26年度は、内科も支援対象にし、小児科の補助額の上限を1500万円に引き上げた。

2026年4月17日朝日新聞より