旧米沢高等工業学校(現山形大工学部)本館前で、玉手英利山形大学長から感謝状を受け取る山口祥二さん(左・S22卒)=米沢市・山形大米沢キャンパス

工学部生奨学などに「研究打ち込んで」

経済的困難を抱える学生を支援しようと、縫製会社を経営していた米沢市大町3丁目の山口祥二さん(94・S22卒)と妻の靖さん(86)が、私財を山口さんの母校・山形大に寄付した。夫妻は昨年、置賜地域出身の学生対象の奨学金を創設したばかり。6日に同市の同大米沢キャンパスで行われた感謝状贈呈式で、山口さんは、戦後の混乱期に勉学に励んだ記憶をたどり、「地域の未来に貢献したい」と語った。

山口さん夫妻は同大に7千万円相当の有価証券を寄付し、同大は先月、山口さんの名を冠した特定基金を制定した。有価証券の分配金を、成績優秀で経済的に厳しい状況にある米沢キャンパスの学生への奨学金と、工学部の研究成果を基にしたベンチャー企業の広報活動や製品開発の支援などに充てる。

山口さんは1929(昭和4)年、米沢市生まれ。米沢興譲館中(現米沢興譲館高)から米沢工業専門学校(現山形大工学部)機械科に進み、50年に卒業した。学生生活を送ったのは戦後の混乱期で、食べるのもままならない時代。当時の校長がドイツ語で講話したことを強烈に覚えている。「広い世界に羽ばたけ」とのメッセージと受け取り、「勉強しなければいけない」と思わされた。

同校卒業後は名古屋市の紡績会社で経験を積み、山形市で縫製会社を創業した。会社を畳み、自身の財産を整理する中で、次世代を担う若者をサポートすることで故郷に貢献しようとの思いが強まった。昨年、5億円を原資に置賜地域の県立高出身の学生を対象に給付型奨学金制度を設けた。

同校は米沢織の産地として、染織産業を発展させたいとの地元の熱意で開校した。山口さんは先人の思いを踏まえ、「この学校を卒業したことは私の誇り」と胸を張る。「人工知能(AI)の登場など、目まぐるしく変化する時代に、学生たちには研究に打ち込んでほしい」と後輩にエールを送った。

2023年11月7日山形新聞より