観光が動き出している、米沢の歴史巡りに詰めかけた「刀剣乱舞」ファン =5月28日、JR米沢駅

新型コロナウイルス禍で長く停滞していた観光が動き出している。国は6月10日に、インバウンド(海外からの旅行)の受け入れを再開する方針を示した。観光目的の入国を認めるのはおよそ2年ぶり。日本人客に関しても少しずつ戻る傾向が見られる。誘客競争が本格化する中、5月にDMO(観光地域づくり法人)を設立したばかりの米沢はどんな戦略を描くのか。

米沢市内では最近、大型バスを含め旅行者の姿が戻りつつある。米沢上杉まつりも3年ぶりに開催され、メインの川中島合戦があった5月3日を中心に大型連休中の宿泊状況も好調だったという。現在市とJR東日本が、ゲームやアニメが人気の「刀剣乱舞」とコラボレーションした観光企画を展開中で、同月28日には団体臨時列車で約380人のファンが米沢に訪れた。「聖地巡礼」に繰り出す人たちを見て、観光の取材で久しぶりに熱気を感じた。インバウンドに関しては同月末に国のモニターツアーが本県入り。羽黒山などを訪れている。もちろん全開とはいかないが、徐々に回復の兆しが見え始めた。

米沢市ではインバウンド客獲得も見据えたDMOが5月に動き出した。実行組織プラットヨネザワの宮嶋浩聡社長(H15卒)は、東北、本県がインバウンドを取り込めていなかったコロナ前の現実を踏まえ、「認知してもらうためのアプローチが相当必要」と話す。一方で、一度多くの外国人が訪日旅行から離れた今が好機ともみる。本年度は強い発信力を持つ国内在住の外国人に、米沢織、草木塔、日本酒、米沢牛など、土地独自の魅力を、地元に根付いた価値観、精神文化とともに伝えてもらう計画だ。もう一つの鍵はふるさと納税のアピール。国内在住の外国出身者に米沢の物産に興味を持ってもらうことで、ファンを増やす。そして、その背後にあるインバウンドの獲得につなげていく考えだ。宮嶋社長が「勝負は3年後」と言うように、地道な取り組みでもある。

観光は、訪れる人だけでなく、その土地に住む人にとっても利益があるものであるべきだ。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんは「コロナ禍はそうした基本を構築し直させる好機」と話していた。米沢のDMOは後発の部類になる。だが、仕切り直しができるこの時期に、新たな組織が産声を上げ、地域の将来のための戦略を描けることはむしろ強みになるのではないか。

2022年6月2日山形新聞より