緩い連携、継続性重視
南陽市の烏帽子山公園が葉桜となるこの季節、白竜湖や十分一山周辺の山々にブドウの雨よけハウスが出現します。JR山形新幹線が赤湯駅を通過してすぐの、県民にとってなじみの風景です。標高483メートルの十分一山の山頂付近まで続くブドウ畑は、観光客が歓声を上げる絶景となっており、東北最古の歴史を誇る県内有数の産地です。
この品質に優れたブドウを原料に、市内には6つのワイナリーがあり、東日本最古の酒井ワイナリーをはじめ、歴史と伝統が息づく日本ワインの銘醸地となっています。近年は、自然はワインの産地としても認知度が高まっています。
しかし、ブドウの栽培の現状を振り返ると、1960年代後半から70年代の前半をピークに栽培面積は徐々に減少しています。南陽市農林課の資料では、95年に2万6882ヘクタールだった栽培地は2020年には1万1866ヘクタールと半減しており、今後も減少することが危惧されます。
農業の後継者不足と栽培者の高齢化で、十分一山の景観保全はもとより、ブドウ産地としての存続に危機感を持つのは、私に限ったことではない状況です。この現状を打破することを目的に、市農林課の熱意ある職員と「ワインプロジェクト」を始めました。
ことしで6年目となるこの取り組みは一口で言うと「農家の顔が見えるワイン」造りとなります。造られるワインは単一農家、単一畑、単一品種です。よって、収穫されたブドウ畑の地番表示と収穫年月日をラベルに表示できます。さらに、ブドウ畑で採れるもの以外使用しないルールで醸造しています。醸造段階での補糖・補酸をしない、まさにブドウの出来がワインのおいしさに直結する「農家にとっても腕が試されるワイン」となります。
ことしは、このよう南陽市のブドウ栽培・産業を活性化する目的に賛同する6軒の農家と五つのワイナリーで12銘柄を醸造、販売する予定です。今後も、このワインプロジェクトに係る「関係人口」を拡大し耕作放棄地の解消、産地の活性化へつなげていきたいと考えています。
このプロジェクトを遂行して気づいた点があります。▽耕作放棄の原因は労働に見合った収入がないことに由来し、苦労しても経済的・精神的満足が少ないこと▽この原因を解決できる当事者間で利害関係が起きやすく、調整がうまく機能しない。さらに伝統的な産業である故にスタークホルダー(利害関係者)が広範囲に存在し、信頼関係の構築が難しい―の2点です。
したがって、このプロジェクトは緩い連携と継続性を重視しています。幸いなことに、南陽市には、ワインブドウ研究会、ワインの里づくり実行委員会などの組織が存在します。それらの組織と連携し、ワインプロジェクトを推進してまいります。日本ワインへの関心や県産ワインの地理的表示(GI)取得、アグリツーリズムの隆盛など、多くの外的機会があります。地元のブドウを通じて多くの人々にシビックプライド(都市に対する市民の誇り)が醸成されること、それが、ブドウ産業の活性化へつながることを期待します。(南陽市在住)
2022年6月1日山形新聞より