天狗山館保存会会長・遠藤慶一さん(S47卒)

東北随一のストーリー・自治体主導の整備を

戦国武将伊達政宗は米沢市の生まれで、市内西部に位置する舘山城跡が伊達氏ゆかりの城跡として、国史跡に指定されており、現在も発掘調査が行われるなど研究が進められています。ここからさらに南に5キロ、小野川町にも政宗ゆかりの山城があったことはご存じでしょうか。

小野川温泉近くの天狗山一帯に位置することから、天狗山館と呼ばれています。政宗の祖父、伊達晴宗が福島県から本拠地を移した戦国期(1549年)以降に構えられ、政宗の父、輝宗が次第に築城拡張したものと考えられています。東西に約1キロの広範囲に及び、土塁に囲まれた曲輪群や、堀底道、大規模な竪堀などの姿が残ります。東北最大級の山城跡で、政宗が南方戦線の軍事拠点にしたと考えられています。天狗山はその名の通り古代から修験の修行道場があった場所で、南北朝の動乱期に僧兵化した修験者が山城を築き、戦国大名伊達家がそれを取り込んだ姿を証していると考えられるなど、東北随一の構えとストーリーを誇るものです。

東北の温泉地近くには多くの山城が存在しており、県内では赤湯温泉の二色根館、上山の月岡城、天童の舞鶴山などが挙げられます。福島県の会津地方、大塩温泉の近くには、政宗の侵攻に備えて蘆名氏が築いた国指定史跡「柏木城跡」があります。なお、政宗は1589(天正17)年に摺上原の戦いで蘆名氏を滅ぼす直前、足の骨折の治療のため小野川温泉に湯治に訪れ、鉄砲隊の演習を見たと、伊達家の歴史をまとめた「伊達治家記録」に残されています。観光地である温泉と絡めた立派な城館遺跡が多く、広域城館遺跡観光といった形で観光振興にもつながることが期待されます。

米沢市文化課で長年、米沢の山城の調査研究に関わってきた考古学者・手塚孝さんが「天狗山館縄張り図作成調査報告書」を数年がかりで作成しました。2016年に国史跡に指定された舘山城跡も手塚氏が発掘調査を主管し、報告書を文化庁へ上程しています。市は昨年、舘山城跡、天狗山館を中心に、市内に複数存在する伊達時代の山城遺跡を観光振興計画に取り入れることにしました。

しかし、国史跡に指定された舘山城と違い、天狗山館は文化財としての史跡指定や整備計画は進んでいません。山城跡は県の「文化財保存活用大綱」が指摘しているように、広範囲の土地が保護対象の文化財となり、周辺環境にも注意を払いながら現地における保存整備を行うことが必要です。正確な保存に当たっては綿密な活用計画に基づく整備、標識や説明板、境界線、囲柵などの設置・更新が必要ですが、天狗山館では自治体主導の整備が行われておらず、天狗山館保存会やNPO法人斜平山保全活用連絡協議会が中心となって縄張り図の作成や登山道の整備に取り組んでいます。

保存会としても、史跡指定を行うよう市に対して要望活動を継続しています。専門家により国の史跡指定確実と言われる天狗山館の保全活用に向けて、県の文化財活用課が指導的な役割を果たしながら、地元の保存会や市、専門家と協調して会議を開き、発掘調査の支援を進めていただきたいと思います。文化財保護活動を支援する各種助成金やクラウドファンディングといった資金調達方法を検討し、調査研究と保全活用、観光ガイドの育成に取り組むことで、観光振興も実のあるものになるはずです。

2022年8月31日山形新聞より