米沢・NPO法人「With優」運営の居酒屋10周年

不登校や引きこもり、就労に悩む若者の支援に取り組むNPO法人With優(米沢市)が実践的な就労訓練の場として運営する会員制居酒屋「結(ゆい)」が2月、オープン10周年となった。利用客に支えられ、新型コロナウイルス禍を乗り越えて、10年で58人を社会に送り出した。運営側は若者が変化する姿に手応えを感じつつ、「就労後も悩みを吐き出せる居場所でありたい」と心がける。

結で接客する若者ら。利用客にも支えられ10周年を迎えた=2月17日、米沢市

結は若者が経験を積み、就労後もつながり続けられる場をつくろうと2013年2月にオープンした。引きこもり状態にあった若者とスタッフが準備を進め、開業のための寄付金集めも行った。趣旨に賛同する客による会員制で、4800人超が登録している。

訓練する多くの若者が一定期間引きこもり、一度も働いたことがない。当初は「人と関わらない仕事に就きたい」と訓練を始める。だが平均で1、2年、短い人だとトレーニングを初めて3カ月ほどで、働くことへの自信が芽生え、接客業を含む多様な職場に就職していく。

不登校を経て6年間引きこもり状態だった男性は、新聞で結の存在を知り、一歩を踏み出そうと一人でやってきた。トレーニングするうちにミスへの対処法を覚え、少しずつ仕事ができるようになり、東京で営業職に就いた。働きながら通信制の大学で学び、昨年、卒業証書を手に結を再訪した。男性は「(結で訓練し卒業した)7年前が始まりだった」と振り返ったという。

若者はなぜ変化していくのか。法人代表の白石祥和さん(41・H12卒)は▽似た境遇の仲間が共に訓練し、就職していく姿が刺激になる▽客とのコミュニケーションを通し、応援してくれる人の存在に気付く―ことを挙げ、「客として接するうちに、引きこもっている若者に対する事業所側のイメージも良い方に変わる」と周囲の変化にも言及する。結の「卒業生」の働きぶりを見て、さらに採用を検討するケースもあるという。

就労しても結に戻る人もいるが、白石さんは「就職してうまくいかなかった時に戻って来られる場所」であることも大事にする。行政などからの補助金もなく、店の売り上げのみで操業し、運営は甘くない。それでも白石さんは「若者の変化を見れば、可能な限り続けていきたいと思う」と話す。地域社会がこうした若者たちの現状を知り、考える場でもある。訪れて、知ることから始めたい。

2023年3月2日山形新聞より