19年開始、熟成の味に期待

朝日風穴に集まったプロジェクトのメンバー=2020年8月

夏でも冷気が噴き出す風穴を天然の冷蔵庫として生かそうと、白鷹町の酒造関係者らで結成したグループが同町黒鴨の「朝日風穴」で、地酒を低温熟成させる試験貯蔵に取り組んでいる。昭和初期まで風穴は蚕のふ化を抑制する目的で、県内約15カ所で実際に冷蔵施設として使われていた記録がある。メンバーは「先人が自然エネルギーを有効に活用してきた歴史を再現し語り継いでいきたい」と話している。

プロジェクトは2019年にスタートした。風穴の大きさは縦約15メートル、横約10メートル、深さ約4メートル。夏場でも2~10度に保たれているという。5~8どの冷蔵庫で保管する熟成酒の場合、センサーで管理するので温度湿度は一定だが、風穴内は気候変化の影響を受けるので、熟成の進み方も異なることが予想される。1年目の試飲では、冬場が寒すぎたため熟成が進まなかった。その分ゆっくりと熟成が進み「味が丸くなり、コクが出るのではないか」との期待が膨らむ。今は一升瓶6本と720ミリリットルの瓶20本ほどを保管しており、8月19日に貯蔵酒を搬出し、3~4年の熟成度合いを確かめる計画だ。

加茂川社長の小島一晃さん(37・H16卒)と地元の酒販店「ヤマシチ商店」店主で加茂川の杜氏・鈴木七十郎さん(52)=本名広貴=は「これほど特殊な環境に置かれた地酒はほかにないので、貯蔵を続けていきたい。風穴は貴重な財産。有効活用したい」と話す。

山形大付属博物館の佐藤琴学芸研究員らの調査によると、大正時代の農商務省農務局が発行した「蚕業取締成績」から、置賜や内陸に風穴を生かした冷蔵施設が17カ所あったことが分かっている。鈴木さんは「養蚕業を支えてきた風穴の歴史や文化を伝え、全国に向けて朝日風穴貯蔵酒を名物にしていきたい」と話している。

2023年7月22日山形新聞より