独特の切り口で幻想的な世界観を描くますむらひろしさん(S46卒)=千葉県野田市

「みんなただいまなのよーっ!」。ユーモラスな猫のキャラクター・ヒデヨシなど独創的な世界が楽しめる「ますむらひろし展」が15日~8月28日、山形市の山形美術館で開かれる。山形新聞・山形放送の8大事業として企画し、米沢市出身の漫画家ますむらひろしさん(69・S46卒)=千葉県野田市=の初公開作品や原画など約400点を紹介する。鮮やかな色彩が織りなす幻想的な空気感、奇想天外なますむらワールドの魅力に迫る。

ますむらさんは1952(昭和27)年、米沢市の増村魚店の長男として生まれた。興譲小、米沢四中、米沢興譲館高を卒業。73年に「霧にむせぶ夜」が、週刊少年ジャンプの手塚賞に準入選しデビューした。83年から宮沢賢治の童話を擬人化したネコで描いて漫画化。85年に公開された劇場版アニメ「銀河鉄道の夜」は100万人を動員する大ヒットとなった。

ユーモラスで愛くるしい作風で知られるが、ネコを描き始めたきっかけは、水俣病に関するテレビ番組だった。水銀に汚染された魚をネコに食べさせる実験を行い、苦痛で飛び跳ねる映像が流れた。人間の残酷さに怒りを覚えた。「人間なんて絶滅すればいい」と、初めて手掛けた漫画が「霧にむせぶ夜」だった。

主な作品は、ヒデヨシをはじめとするネコと人の理想郷を描いた「アタゴオル」シリーズや、「アタゴオル」のキャラクターと葛飾北斎の浮世絵を融合した「アタゴオル×北斎」、宮沢賢治の作品を漫画化した「銀河鉄道の夜」「ヨネザアド物語」など。

キャラクターは大手メーカーのCMに起用されるなど、幅広い年代から人気を得ている。97年に「アタゴオル玉手箱」で日本漫画家協会賞大賞、2001年に宮沢賢治学会イーハトーブ賞をそれぞれ受賞。06年から米沢市の「おしょうしな観光大使」を務める。

好きなものは、ネコとサッカーと音楽。これまで約30匹のネコを飼ってきた。サッカー選手にちなんだ名前のネコもいた。今は「モン」「コマ」「ハテナ」と暮らす。酒田市出身の歌手白崎映美さんと親交があり、ますむらさんの展示会では一緒にライブをするなどしている。

本展の目玉はなんといっても、全国に先駆けて公開される「銀河鉄道の夜・四次稿編」の漫画原稿など45枚(額装35点)だ。1971年制作のイラスト「左手」やポスター、アイデアノートなど初期の作品から新作、グッズがそろう。ますむらさんの世界観を存分に楽しめる展覧会が、5年ぶりに山形に帰ってくる。

2022年7月12日山形新聞より
ますむらさんが初めて描いた漫画「霧にむせぶ夜」の一場面(「ヨネザアド幻想」より