ますむらひろしさんの古里・米沢市では、ネコのキャラクターをあしらったバスが走り、作品に登場する「猫の目時計」が立っている。物語にちなんだ出版社「ヨネザアド・カタツムリ社」があり、モデルとなった飲食店にはファンが集まる。米沢が生んだ漫画家を知ってもらおうと、初の原画展を開催してから20年余り。独創的な世界観やユーモアあふれるキャラクターは多くの人に愛され、しっかりと根付いている。
ぎょろっとした目玉と長く伸びた舌が特徴的な「猫の目時計」は、1999年に市中心部の遊ゆうロード毘商店街に設置された。ファンで、当時、商店街の青年部長だった滝口宏さん(57)=同市中央1丁目、会社役員=が企画して出版社に直訴。木で時計のイメージを作って見せたところ、あまりの不気味さにぎょっとしたますむらさんが直々にデザインしてくれることになった。
カタツムリ社は滝口さんと有志が立ち上げ、米沢に関する作品をまとめた本などを発行している。「中学生の頃に『アタゴオル』を読んで夢中になった。強烈なアイテムや予想できない物語が面白い」と魅力を語る。
作品に出てくる飲食店「べんけえ」は、同市中央1丁目の「居酒屋弁慶」がモデルだ。ますむらさんが2000年に初の原画展を開催した際に訪れて以来、行きつけにしている。座敷にはイラストやサインがずらり。開店30周年にますむらさんがその場で描き上げたイラストも並ぶ。
一度、ますむらさんは店を驚かせた。休みの日に訪れ、格子状になっている入り口のガラス戸にキャラクターなどをびっしり描いて帰ったのだ。店主の山田政昭さん(67)は「びっくりしたけど感動した。話題になり、ファンから譲ってほしいとも言われた。本当に気さくで憎めない人。ずっと応援していきたい」と笑う。
ラッピングバスは01年から運行。公募で「ヨネザアド号」と名付けられ、青と黄色の2種類が市街地を巡回している。「ヨネザアド」とは、ますむらさんが宮沢賢治の心象世界「イーハトーブ」から着想し、米沢にちなんで作り上げた空想の世界。この言葉一つにもますむらさんの地元愛が伝わる。
作品にはほかに斜平山や羽黒川橋、米沢弁、ゆかりの店や友人らがたびたび登場する。ふるさとを愛し、愛される作家は、今後もファンを広げていくのだろう。
2022年7月14日山形新聞より