一番注目していた「アタゴオル×北斎」=山形市・山形美術館

ますむらくんとは高校の同級生。同じ美術部にいた。

彼がもう50年も前に描いた油絵に「緑色の髪の少女」があった。40号の画面いっぱいにエメラルドグリーンで鮮やかに乱れた髪が描かれ、その中にひしゃげた顔があった。彼が描いた他の作品の人物はおおむねにして面長で、モディリアーニ風であったと記憶しているが、残念ながら詳細な構図を思い起こすことができない。

しかし、その「緑の髪」には記憶をよみがえらせるある出来事があった。今から22年前、ちょうど2000年の夏、山形美術館でヨネザアド(米沢市)出身の写真家・細江英公さんの展覧会が開かれた。細江さんは三島由紀夫をモデルにした「薔薇刑」や「ガウディの宇宙」を撮った偉大な写真家だが、その中の「ルネ・ロッサ」シリーズにモノクロ作品「緑の髪のおんな」があった。それを見た時、思わず「おおお、ますむら」と声を上げた。あまりにも構図が一致していたからである。もちろん、2人が図った訳もなく、制作年は明らかにますむらくんが早い。こんな偶然があり、より一層その絵が印象づけられたのかもしれない。

今回の展示では「アタゴオル×北斎」を一番注目していた。そして「ますむらひろし北斎画集新装版」をつぶさに見て新たな感動を覚えた。優れた古典を模倣して制作することは、書道では臨書という確立した方法がある。「まねるから学ぶ」ように、もちろん絵画にも方法論があると思うが、この画集を見て彼が北斎と真摯に対峙し、格闘していることがよく分かった。そしてこのパロディーに彼の全人格=ますむらワールドが融合し、孤高の作品に仕上がっている。画集の一つ一つの言葉を確認するように、何度でも足を運びたくなる。

北斎のよき理解者には北斎研究家の金子孚水、元上杉博物館学芸員で北斎に関する著書もある尾崎周道、画商の木村東介というヨネザアド出身の先達がいて、ここにまた、ますむらひろしという実作者が登場した。大変愉快である。

たくさんの人が展覧会を見て楽しんでいただけるよう祈念します。

2022年8月14日山形新聞より
書道家・菊池峰月さん(S46卒)

きくち・ほうげつさんは1953年生まれ。置賜各地の教室で指導しながら制作に励む。各地で個展を開き、県総合書道展の審査員を務めた。2021年に米沢市芸術文化協会の芸術功労賞を受賞。県総合書同会理事。置賜書道会主宰。詠士会会長。

2022年8月14日山形新聞より