「CO2排出量抑え、品質は維持」

山形県米沢市の老舗酒蔵が2月から、日本酒造りに使う電気を、自社の酒かすを活用した再生可能エネルギーに切り替えた。酒かすと牛ふんなどを混ぜ合わせてメタンガスを発生させ、それを燃料にしてつくった電気で酒造りをするという流れだ。

安土桃山時代の1597年に創業し、日本酒「東光」で知られる小嶋総本店が取り組む。年間約50万本(720ミリリットル換算)の純米酒を造り、約70万キロワット時の電気と、約85キロリットルの重油を使っている。二酸化炭素(CO2)の排出量は年間約680トンで、約40人いる従業員1人あたりでみると、一般家庭の約12倍に当たるという。

酒かすを手に「エネルギー利用の循環型サイクルを確立したい」と話す小嶋健市郎さん(H11卒)=米沢市本町2丁目

同社社長で24代蔵元の小嶋健市郎さん(42・H11卒)は「製造や貯蔵技術が進歩するとともに、伝統産業である日本酒造りも消費電力が増えてきた。品質を維持しながらCO2排出量を抑えるにはどうすればいいかが大きな課題だった」と話す。

小嶋さんは、米沢牛の主産地、同県飯豊町にある「ながめやまバイオガス発電所」を見学した際、酒かすでも発電できることを知る。「東北おひさま発電」(長井市)が運営し、2020年10月から本格稼働した発電所で、近くの畜産農家5軒から地下のパイプラインを通して集められた牛ふんなどを発酵させ、発電燃料のメタンガスをつくっている。牛ふんと混合させる食品残渣(ざんさ)の一つが酒かすだ。

小嶋総本店は、日本酒造りで出る年80トン~100トンの酒かすを蒸留して焼酎を生産。1年ほど前から、その時に出る焼酎かすを月2回ほどトラックで発電所に運んでいる。

酒かすを生かした再生可能エネルギーを導入することで、小嶋総本店のCO2排出量はこれまでの約3分の1に減る見通しだという。小嶋さんは「気候変動で台風や豪雨の規模が大きくなっており、コメ作りにも悪影響がある。まず自分たちの生産活動から見直し、エネルギー利用の循環型サイクルを確立していきたい」と今後を見据える。

ながめやまバイオガス発電所=飯豊町添川

電気は、ながめやまバイオガス発電所の電気などを仕入れて、22年11月に企業向けの電気供給を始めた「おきたま新電力」(米沢市)を通して購入する。

2023年2月14日朝日新聞より