1年目の酒造りを終え、今冬の仕込みの開始を待つ備前甕 =米沢市・小嶋総本店

安土桃山時代の1597(慶長2)年に創業の老舗酒蔵「小嶋総本店」(米沢市・小嶋健市郎社長・H11卒)が、創業当時と同様の備前甕仕込みの酒造りに挑戦している。昨冬初めて仕込んだ酒は、ホーローやステンレスのタンクを使う現代のものに比べ複雑な味に仕上がったという。小嶋社長は「自分たちの酒造りはここから始まったという象徴的な存在。完成度をさらに上げて独自の酒の表現を追求したい」と話す。

同社資料館には創業当時に使ったとみられる備前甕が残っている。ただ甕は割れやすくて重く、大型化も難しい。江戸時代以降、木桶によって酒造りの現場からは淘汰された。

備前甕の酒造りは、小嶋社長が2年前に備前焼作家の松井宏之さんと出会ったことで動き出した。酒造業界全体の技術向上が進む中で、小嶋社長には「自分たちの個性を見直す必要がある」との思いもあった。資料館のものと同様の甕を三つ作ってもらい、同社の甕仕込みが数百年ぶりに“再開”した。

甕仕込みの一番の難しさはその小ささ。三つの甕はそれぞれ210~230リットルで、現在同社が使っているタンクよりも容量が一桁少ない。現代の酒造りに比べて効率が落ちるのはもちろん、発酵の進み具合などの調整にも苦労した。

初回醸造は県産の亀の尾を主に使用し、少量のつや姫も配合した。小嶋社長は「石をなめたようなミネラル感や、土を感じさせる酸味も感じられ、複雑で力強い仕上がり」と話す。今冬以降も、切り口を変えながら甕仕込みの酒造りへのチャレンジを続けていく。

きょう3日から「東光 安土桃山」の名称で限定900本を販売する。1本720ミリリットル入り1万1千円。同社の特約店と同社オンラインストア、酒造資料館東光の酒蔵で取り扱う。問い合わせは小嶋総本店0238(23)4848。

2021年12月3日山形新聞より
創業当時と同様の備前甕で醸造した「東光 安土桃山」