「後遺症への周囲の理解が必要」と話す石橋正道医師(S53卒) =米沢市

実態把握・必要性高まる 

支援や予防への効果・県内、進まぬ調査

新型コロナウイルスの感染者が県内で初めて確認、公表されてから31日で2年となる。ウイルスの変異に伴い感染拡大の波が次々と訪れ、県内の累計感染者は1万7千人を超えた。2年の歳月が経過しても県内にはコロナ後遺症の専門外来はなく、専門の相談窓口もない。他県の事例を挙げながら支援の在り方を探る。

だるさ、眠れない、喉の不調、さらには脱毛、息苦しさ、味がしない、においも分からない…。新型コロナに感染し、陰性と判定された後にも続く後遺症の一部だ。厚生労働省によると、世界保健機関(WHO)は新型コロナに罹患後、2カ月以上にわたり症状が続き、他の疾患として説明がつかないものを後遺症と定義づけている。

当事者の言葉

「食欲不振や悪寒は今も続いている。一部の症状は以前より重くなっている」2020年4月に感染した米沢市の石橋医院の石橋正道院長(62・S53卒)は、感染から既に2年となるが、今も後遺症に苦しめられている。感染時の症状も食欲不振や悪寒が中心だった。体重は感染前から8キロほど減った。腹部の重苦しい感覚は常態化し、日中に吐き気や悪寒が出ることもある。

採血をはじめ、必要な検査は一通りした。でも明確な問題は見つからない。「感染時の炎症が周りの神経などに影響しているとも考えられるが、はっきり分からない」と分析する。症状が落ち着く気配がないことも、不安感を増す原因になっている。「仕事はできているので、これからも症状と付き合っていくしかない」と嘆息する。

医院には自身と同じように後遺症に苦しむ患者が訪れる。重い症状は薬などで抑えることもできるが、原因が分からないもどかしさを医師としてはもちろん、同じ症状に苦しむ1人の患者として感じている。

「まずは耳を傾けるしかない。『気のせいだよ』などとは絶対に言ってはいけない」。患者が精神的に追い込まれることがないように、周囲の人にも同じ姿勢が必要と強調する。「原因が分からない後遺症に苦しむ人は多くいる」。当事者の言葉は重い。だからこそ「改めて『感染しないことが一番』と認識してほしい」と県民に求めた。

独自の取り組み

全国では独自調査で年齢や性別などの傾向を分析し、適切な治療や支援につなげようとする動きがある。

神戸市は今月22日、昨年4月の第4波の感染者を対象にアンケートし、後遺症の有無やその症状の結果を公表した。有効回答1598人のうち後遺症が「あり」は771人(約48%)に上り、半数が苦悩し続けている現状が浮き彫りとなった。年代は60代で58%と最多で、70代は56%、50代53%と続く、症状は最多が倦怠感で筋力低下や、せき、息苦しさも目立った。

同市健康企画課の担当者は「療養終了後も、市民からはせきなどの症状が続くといった訴えが複数寄せられた」とし、「仕事や学校に行けない実情が分かり、対応策を考える上で市民の声を聞くべきだと思った。後遺症の実態を数値化することで市民への予防啓発にもつながる」と話す。

同市は、昨年11月1日、後遺症相談の専門ダイヤルを開設し、市民から幅広し悩みに応じている。相談件数は約1300件に上り、オミクロン株が拡大した第6波以降は増加傾向を示す。今秋には第6波の後遺症の影響についても調査する方針で、「変異株により顕著な症状は違う。その都度、柔軟な支援策を検討していくことが重要」とする。

本県では後遺症の実態調査は行われておらず、現状の把握は進んでいない。長引く後遺症に行き場のない苦しみを抱える人は一定以上いるとみられるが、調査を行う予定はないという。

2022年3月31日山形新聞より