復興支援金の贈呈式後、記念写真に納まる吾妻屋旅館の安部直人さん、滝見屋の安部里美さん(H10卒)ら=20日、米沢市金池3丁目
6月の豪雨後、地元の人ら多くのボランティアが駆けつけ、土砂をかき出した

「いよいよ山を下りるときがきたかなと・・・」

豪雪と豪雨に見舞われた米沢市の二つの秘湯が存続の危機を乗り越え、この秋、宿泊客を迎えている。地元の人や旅館のファンら多くのボランティアが復旧を手伝うなどし、市内に八つの温泉がある「米沢八湯」の歴史が守られた。

大平温泉「滝見屋」と新高湯温泉「吾妻屋旅館」。それぞれ山奥にある一軒宿だ。市内の温泉宿でつくる温泉米沢八湯会を中心に、「苦労して守ってきた温泉を守ろう」と災害復旧支援金を募るなどし、観光、商工関係者らが協力した。

吾妻連峰の山中にある滝見屋は車でたどり着けない。市街地からつづら折りの山道などを車で一時間近く走り、さらに約800メートル歩く。昨季の豪雪で建物が傾き、土台から修繕が必要になった。作業中の6月27日に局所的な豪雨に襲われ、源泉からの配管が流され、露天風呂が土砂に埋まった。8月3日にも記録的豪雨に遭い、営業再開を遅らせた。

「二重三重の被害が重なり、いよいよ山を下りるときがきたかなと」。10月20日に復旧支援金の贈呈式があり、あいさつした滝見屋の若女将、安部里美さん(43・H10卒)は声を詰まらせた。

ファンら復旧作業、国内外で支援金

9月から週末中心の営業にした。源泉の復旧作業は来年以降も続く。「今が踏ん張りどころ。米沢八湯の多様性を表現できる宿として恩返ししたい」と話す。また、「力強い源泉がわき、『戻れてうれしい』と逆に感謝してくれるお客さんもいる。みなさんがそれぞれの立場で支援してくれた」と感謝する。

今期は11月5日に最後の宿泊客を迎える。雪に閉ざされる冬を越して、来春の大型連休から再開する。

標高約1300メートルの天元台高原に近い吾妻屋旅館には6月27日の豪雨時、宿泊客11人がいた。宿に続く道は土砂で埋まり、川のようになった。停電し、源泉は供給が止まった。被害は甚大だったが、幸いけが人などはなく。1週間ほどで仮復旧できた。

両温泉の復興支援金は7月25日~10月20日に209件、計約437万円が寄せられた。国内各地のほか、台湾、タイ、イギリス、アメリカなど海外の秘湯ファンからも届いたという。

2022年10月28日朝日新聞より
多くのボランティアが露天風呂の土砂をかき出すなど復旧作業にあたり、以前のように湯が勢いよく湧き上がる