研究の最前線

教育と診療に加え「研究」も山形大学医学部が担う大きな使命。基礎から臨床まで、日々さまざまなテーマで進展している。中でも長年にわたり、山形大学医学部を挙げて取り組んできたのが「コホート研究」だ。山形の地域性と県民の協力があってこそ成立し、成果は県民に還元されている。発展に尽力してきた今田恒夫教授(公衆衛生学)にその最前線を語ってもらった。

山形大学医学系研究科公衆衛生学・衛生学講座:今田恒夫教授(S58卒)

米沢興譲館高S58卒。山形大学医学部卒。内科医として腎臓病を専門とする中で予防に興味を持ち、医学部のコホート研究に携わる。2017年から現職。

歴史と実績ある地域住民コホートと病院のバイオバンクを統合し「山形Well-Being(ウェルビーイング)研究所」を新設。最終目標は、住民が健康で、幸せな山形県。

山形大学医学部では各講座で研究がなされているが、「メディカルサイエンス研究所」を拠点に、学部全体として取り上げている研究もある。その目玉が「山形県コホート研究」だ。コホート研究とは、ある集団を長期的に観察することで、疾病の要因と発症の関係を調べるもの。山形大学医学部は、1970年代に始めた「舟形コホート」を源流に、2003年からは高畠町で約3千人規模の調査をスタートさせた。この頃からゲノム解析も行われるようになった。09年からはさらに大規模な「山形コホート」が始動した。山形市など7市に住む2万人超の賛同を得て、毎年定期健診データをまとめて「山形県コホート研究」と呼び、約2万3千人の集団をずっと追跡調査している。

その結果、運動習慣や食べ物、元々の体質と病気との関係、人の心の動きなどが次々と明らかになってきた。論文もたくさん発表され、学術的に成果が表れてきた。

しかし、それで終わりではいけない。論文が書かれてもみんなが健康になるわけではない。成果を県民に返し、最終的には山形県民が健康になり、幸せになることが目的だ。

一方で、山形大学医学部ではコホート研究に加え、大学病院で患者のバイオバンクを行っている。コホート研究で集積された地域住民の「病気になる前」のデータと、病院で集積された「病気になった人」のデータ。双方を持つのは全国の大学でも珍しい。これこそ山形大学の強みである。

そこで4月から、山形県コホート研究と附属病院のバイオバンクを統合させ、「山形Well-Being(ウェルビーイング)研究」と名称を変更。医学部単体ではない、山形大学全体の取り組みとしてさらなる発展を目指すことになった。

なぜウェルビーイングなのか。今までの医療が目指していたのは、とにかく「長生き」だった。しかし現代では、心身ともに健やかで社会的にも孤立していない状態である「健康寿命」が重視されている。そこで、そもそもウェルビーイングとはどういう状態で、何が関係するのか、調査を始めたところだ。

以前から、コホート研究の課題として指摘されていたのは「人間は画一的じゃない」ということ。医療にはガイドラインがあるが、実は同じ薬でも効く人と効きにくい人がいる。だから差別化した予防と医療が必要とされている。そのためのデータを県民にお返ししたい。また、長期にわたる一貫性のあるデータを生かして、研究成果の「地産地活」を実践したい。

加えて、総合大学である山形大学では、さまざまな領域の研究者が協力する体制も構築されている。山形県は日本人のウェルビーイング研究を行うための理想的な条件が整っている。研究の目標は、一人一人にあった予防法・治療法の開発と創薬につなげること。そして講演やアプリを利用し地域全体へ還元すること。その結果、山形県民が健康になり、幸せになることがゴールだ。みんなで力を合わせて目指したい。

2023年3月31日山形新聞より