清野春樹(S43卒)著「山形県のアイヌ語地名」

評者:吉田敬・県立米沢女子短期大教授

山形県内には合海や左沢など、少し不思議な地名が見られる。本書はそうした地名の由来について、いわゆるアイヌ語地名の視点から読み解こうとしたものである。

著者は、これまでも県内の伝承や歴史の掘り起しに尽力され、多くの著書を世に出されているが、本書では県内のアイヌ語地名を探求してきた成果を一緒にまとめている。それぞれの地名について、アイヌ語による読み解きが試みられているが、そのご努力に敬意を表したい。

アイヌ語地名とは、例えば登別や稚内のように地名の末尾に「ベツ」「ナイ」が付くなど、特徴的な地名のことで、現在も北海道や東北地方北部に濃厚に存在している。「ベツ」はアイヌ語の「ペッ」に通じ、その系統を「ペッ」地名。語尾に「ナイ」が付くものは「ナイ」地名と一般に呼ばれている。こうした地名はアイヌ語に由来していると考えられ、その解釈が試みられてきた。

そうした研究の一つの到達点に山田秀三氏の成果がある。しかし、山田氏も山形県内ではほんの数例しか拾うことができなかった。そうした中、著者は置賜地方で115、村山地方で117、最上地方で42、庄内地方で32のアイヌ語地名を集められたという。例えば、左沢(大江町)はアイヌ語で「ア テルケ ウシ イ」の省略形で「我らいつでもそこで踊る」という意味とし、合海(大蔵村)はアイヌ語学者。西鶴定嘉の解釈を参照して「川が叉になっているところ」という意味だと紹介している。

本書では最後に県内のアイヌ語地名の特徴を分析する。まず、その存在が見えにくいのは古代の律令政府の支配が及んで変換されていった可能性があると指摘する。また「ナイ」地名が先行してあるところに「ペッ」地名が進出してきたと推測している。

以上のように、県内のアイヌ語地名を丹念に拾い集め、その特徴を検討した点は、従来にない成果と評価されよう。しかし、同時にアイヌ語地名研究には多くの課題があることから、その理解が妥当かどうかは、今後も丁寧に検討を重ねていく必要がある。とはいえ本書は、一つの仮説として県内の地名研究に資するものと思われる。(不忘出版・1650円)

2023年6月7日山形新聞より