江戸中期、米沢藩は深刻な財政赤字にあえいでいた。幕府から封土を減らされ、たび重なる倹約令も焼け石に水。藩の借り入れは実収入の5倍にも達し、利息の支払いにも窮した。

山形県米沢市出身で長く野村総研に努めた加藤国雄さん(76・S39卒)は、金融工学の知識を生かし、米沢藩の財政史を子細に調べた。借金にまみれ、領地を幕府に返上するしかないと思い詰めた前藩主に代わり、登場したのが第9代上杉鷹山である。

まずは漆や桑、楮を100万本植える米沢版「歳入倍増計画」を立てるが、あえなく頓挫。次に藩の支出を半減させ、養蚕と絹織物による殖産振興に乗り出す。武士層を繊維ビジネスに動員することで「米沢織」の名を高め、鷹山は30年かかって財政の健全化を果たす。

「借金残高と税収を比べれば、鷹山が格闘した借金地獄より、いまの日本の財政の方が3倍深刻です」と加藤さん。今年度の国債残高は1千兆円。税収の15倍を超える。鷹山が背負った借財は歳入の5倍だったから、苦しさは3倍というわけだ。

折しも新年度の国の予算案が今週、衆院を通過した。歳出は10年連続で増え続け、過去最大に。抱え込んだ借金残高を国内総生産(GDP)比でみると、日本の債務比率は先進国で最悪の水準という。

名君の誉れ高い鷹山が没して来月で200年。米沢藩の人々より今の私たちの方が財政破綻の淵の近くに立たされているのだろうか。確定申告たけなわのこの時期、一納税者として不安が募る。

2022年2月26日朝日新聞・天声人語より